重陽の節句を映す9月の先付|着せ綿と秋鱧の御料理
九月は、旧暦で「長月」と呼ばれる月。まだ暑さを感じる日もありますが、暦や草花に秋の訪れを感じる頃です。
安来家では今月、九月九日の「重陽の節句」をテーマに、季節の懐石料理をご用意しています。
重陽の節句は、五節句のひとつです。古くから縁起がよいとされた陽の数のうち、最も大きな「九」が重なることから「重陽」と呼ばれます。長寿を願う菊との結びつきが深く、「菊の節句」という名でも親しまれてきました。
桃の節句や端午の節句に比べると、今では耳にする機会が少ない重陽の節句ですが、季節の節目に健やかな日々と長寿を願う心は、今の暮らしにも静かに寄り添います。安来家の九月の献立も、その心を一皿ごとに映していきます。
菊の着せ綿に、健やかな願いを込めて

写真の右上に添えているのは、重陽の節句を象徴する「着せ綿(きせわた)」です。
着せ綿とは、重陽の前夜に菊の花へ真綿をかぶせ、夜露と菊の香りを綿に移す古くからの風習。
翌朝、その綿で身をぬぐい、無病息災や長寿を願ったと伝えられています。
ふんわりと綿をまとった菊の姿は、それだけでも愛らしいものです。
そこに込められた意味を知ると、昔の人々が花や露に託した願いまで身近に感じられます。
料理そのものだけでなく、こうしたしつらえも日本料理の季節を伝えてくれます。
季節の行事に込められた願いを、御料理の席でも感じていただけるように。九月の懐石の始まりに、菊の着せ綿をしつらえました。先付を前にしたとき、まず目で菊の節句の趣を味わっていただけましたら幸いです。
粟麩の白和えと、秋鱧のとろろ和え
左の器は、粟麩と柿、シャインマスカットの白和えです。
粟麩は表面を炙り、もちもちとした食感を楽しんでいただけるようにしました。
柿とシャインマスカットを合わせたフルーツの白和えですので、白和え衣には少量のクリームチーズを加えています。
果実と白和えがなじみよく重なり、その中に粟麩の食感が加わります。
仕上げには柚子の皮を振り、ひと口ごとに香りが立つようにしています。
粟麩、柿、シャインマスカット、それぞれの食感をひとつの白和え衣がつなぎ、最後に柚子の香りが残ります。
小さな器の中でも、口に運ぶ組み合わせによって異なる味わいを楽しんでいただけます。
右側は、蛇腹胡瓜と鱧の唐揚げのとろろ和えです。細かく蛇腹に切った胡瓜を土佐酢にくぐらせて盛り付け、その手前にカリッと揚げた鱧を添えています。
鱧といえば夏の印象が強い魚ですが、秋の鱧は夏よりも脂がのっておいしいともいわれます。
その鱧に、土佐酢と混ぜた山の芋を上からかけ、黄身酢と鰹節で仕上げました。
蛇腹胡瓜の歯ざわり、鱧の唐揚げのカリッとした食感、山の芋のとろろ。それぞれを味わったあとに、ひとつに和えて召し上がっていただくと、食感と味わいの重なりが変わっていきます。
黄身酢の風味や鰹節の香りも含め、食べ進めるほどに移ろうひと皿です。
先付は、これから始まる懐石の最初にお出しする御料理です。
ひと目で季節を感じ、ひと口の中でいくつもの香りや食感に出会っていただくことが、その後に続く御料理への楽しみにつながるようにと考えています。
白和えでは、炙った粟麩のもちもちとした食感に、柿とシャインマスカット、柚子の香りを。
とろろ和えでは、胡瓜と鱧の異なる歯ざわりに、土佐酢、黄身酢、鰹節の風味を。
九月の先付は、菊の節句の趣とともに、味はもちろん、香りや食感の変化まで楽しんでいただけるようお作りしています。
安来家では、店内の懐石料理だけでなく、仕出しの折詰弁当や松花堂弁当でも、同じように季節替わり・月替わりの御料理をお届けしています。
ゆっくりと懐石を囲むひとときに、また、ご自宅やお集まりの席でのお弁当に。
お好きな楽しみ方で、九月ならではの安来家の味をお召し上がりください。
