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年のはじめの献立は、晴れやかさの中に静けさも要ります。

私どもが一月に向き合うとき、まず思い浮かぶのが「お雑煮」の輪郭です。

祝いの場で育ってきた味わいは、派手さよりも、家ごとの記憶や土地の気配を連れてきます。

その気配を、会席の炊き合わせとして。そこに私どもの仕事の手触りが出ます。睦月の炊き合わせは、お正月のお雑煮風。白味噌のやわらかさを芯に据え、素材の温度や食感を静かに重ねました。

「餅」を長芋で写す、という仕立て

お雑煮の中心にあるのは、やはり餅の存在感です。

ただ、会席の流れの中では、餅そのものを置くだけでは強すぎる場面もあります。

口当たり、のど越し、余韻——そのすべてを次の一皿へつなげるために、私どもは長芋で「餅のようなもの」を写し取ることがあります。

長芋は、すりおろした瞬間の瑞々しさが魅力ですが、そのままでは汁に溶けやすい。そこで、すりおろしたあとに一度蒸し、熱で粘りを落ち着かせ、最後に焼き上げて表面に香ばしさをつけます。蒸しの熱が中の水分を抱え込み、焼きで輪郭が立つ。結果として、餅のようにもっちりとしながら、重たさは残しません。

白味噌の汁に沈めても崩れにくく、箸で切るとふわりとほどける——この“ほどけ方”が、一月の炊き合わせには似合うと考えています。

白味噌に寄り添う鴨、治部煮の含ませ

手前には鴨肉を。白味噌との相性は言うまでもなく、脂の甘みが汁の丸みと合わさって、角のない旨さになります。

ここで私どもが寄せたのが、金沢の郷土料理として知られる「治部煮」の考え方です。鴨に薄く粉をまとわせ、とろみを含ませて火を入れる。旨味を閉じ込めるための工夫であり、汁と具を離さないための技でもあります。

治部煮の要点は、“とろみで守り、含ませて馴染ませる”こと。炊き合わせとして整える際には、とろみの強弱を控えめにし、白味噌の口当たりを邪魔しないところで留めます。鴨の香りは立てすぎず、しかし消さない。温度が少し落ちてきた頃に、ふっと旨味が上がってくるように火を当てます。

一月 懐石のなかで、温物が担う役割は「場を落ち着かせる」ことでもあります。鴨の力強さを、白味噌のやわらかさで包む。睦月の会席らしい均衡を狙いました。

水菜と梅人参――“お雑煮といえば”を、あえて一筋だけ

上には水菜を添えます。お雑煮といえば、の野菜。

青味は香りで季節の空気を入れ替え、白味噌の甘さを軽くしてくれます。

もう一つは梅人参。新春を意識して梅に形どり、赤い色味を一点だけ置きます。

華やぎは、散らすよりも“一点で効かせる”ほうが、器の中が静まります。

祝いの意匠は、語りすぎると薄くなる。控えめな梅の形が、白の汁の中で小さく呼吸する程度がちょうどよい——そう考えています。

器が決める、白の余白

白味噌の汁は、光を受けると表情が変わります。

器は釉薬の景色が穏やかなものを選び、白が平板にならないようにします。汁の白さを引き立て、湯気の立ち方まで変わる。

私どもは料理だけで季節を語らず、器の温度、色、余白で季節の静けさを支えます。

冬 懐石では、とくにその差が出ます。温もりを器に預けることで、料理が急がなくなるからです。

炊き合わせという仕事

炊き合わせは、ただ“煮る”だけの料理ではありません。素材それぞれの煮え方、含ませ方、味の入り方を見極め、最後に一つの椀の中で整合させる仕事です。

長芋の「餅」、鴨の治部煮、水菜、梅人参、白味噌の汁——それぞれが勝手に主張を始めると、落ち着かない。

逆に、すべてを均一にすると、正月の気配が消えてしまう。

一月の空気は、乾いて澄み、音が遠くまで届くような静けさがあります。その静けさを壊さないよう、味は丸く、香りは高く、食感はほどけるように。睦月の炊き合わせは、その均衡を探す一皿です。

お席だけでなく、場に合わせた仕立てへ

こうした温物の考え方は、店内の懐石/会席に限らず、仕出し料理にも通じます。配達の時間や環境で温度は変わりますから、香りの立ち方、汁気の収まり、具の崩れにくさを先に織り込んでおく。

“出来たて”の一点に寄せるのではなく、届いた場で気持ちよくお召し上がり頂けるように設計する。

炊き合わせの仕事は、そうした場の読み取りにも支えられています。

阿倍野という土地で料理を続ける私どもにとって、季節の節目をどう受け止めるかは、献立だけでなく、届け方にも表れます。

睦月の炊き合わせ、お正月のお雑煮風。長芋で写した餅のもっちり感、治部煮の含ませをまとった鴨、白味噌の丸み、水菜の香り、梅人参の一点。

新年の料理は、華やかさよりも「これから積み重ねていく時間」を静かに示すものだと、私どもは考えています。

器の中にあるのは、祝いの形式ではなく、季節を読み、手を入れ、余白を残すという日々の積み重ねです。

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