二月の八寸盛り 節分の気配を、ひと皿に
2月は節分があり、懐石の始まりにもその気配が混ざります。
なので私たちは、節分を意識した先付けから自然に入れるよう、流れを整えています。
今回は、如月の八寸をご紹介します。
八寸は、その月の景色を小さく切り取る場所です。
器に並んだ色や香りで、「いまの季節」がすっと伝わるように組み立てます。

まず左側に大きく飾っているのは、緑色、柊です。
葉の棘が鋭く、触れるとチクチク刺さるあの感じが、節分の習わしを思い出させます。
柊が鬼の目を突くことで家への侵入を防ぐ、という言い伝えがありますが、その意味を飾りとして添えるだけで、皿の上に小さな節分が生まれます。
柊のそばの赤い実は南天です。黒い器の上だと赤がきゅっと映えて、目線が自然に集まります。南天は「難を転ずる」と言われる縁起物で、幸運を呼び込む象徴でもあります。行事の賑わいをそのまま持ち込むのではなく、静かな縁起として置くのが、八寸らしい表現だと思っています。
料理は左側から少しずつ。まずは稲荷寿司です。甘辛いお揚げの香りがふわりと立ち、口の入口をやさしく整えてくれます。その下に添えたのが、佐賀牛のローストビーフ。噛むほどに旨みが広がり、八寸の中で味の芯になる一品です。
続いて若ごぼうの信田巻。旬の若ごぼうを揚げで巻いて炊き、揚げに出汁を含ませます。ほどけるような食感のあとに、若ごぼうの青い香りがすっと残ります。その上には、酢でしめたサゴシのきずしを。炙って風味よく仕上げており、酢の輪郭に香ばしさが重なります。
真ん中には、いつもお馴染みのだし巻き卵を置きます。八寸の中心は、派手さよりも落ち着きを大切にしたく、出汁のやさしい甘みで全体の味をまとめます。
下にはそら豆の蜜煮。艶が出るまで煮含め、甘みが前に出過ぎないように整えています。
横に添えるのは蓮根餅です。すりおろした蓮根に刻んだ蓮根を混ぜ、もっちりの中にサクっとした食感のアクセントを残します。上には相性の良い柚子味噌をかけて、香りで後味を軽くしました。ここは味を強くするというより、次の一口へ運ぶための香りを添える感覚です。
右の器には、菜の花の辛子和えを盛ります。春の苦味が心地よく、辛子のきりっとした刺激が全体を締めます。甘み、旨み、酸味のあとにこの苦味が入ると、口がすっと整い、次の料理へ自然につながります。
懐石・会席の流れのなかで、八寸は「季節を口で確かめる場所」だと私たちは考えています。ひと皿の中に、その月の景色や行事の気配がきちんと収まると、コース全体の歩幅も揃っていきます。
安来家では二月の懐石でも、節分の縁起を飾りに託しながら、若ごぼうや菜の花の香りと苦味で、冬から春へ向かう足音も添えました。これからも季節を感じていただけるように、ひとつひとつ整えていきます。
