蓋を開ければ広がる春色。桃の節句を祝う折詰とちらし寿司
今日から3月に入りました。
カレンダーを一枚めくっただけで、ふっと風の冷たさが和らぎ、心なしか暖かく感じるから不思議です。
朝早くから仕込みをする厨房でも、水を使う私の手元が、冬の厳しい冷たさから少しだけ解放されました。
ここ阿倍野の街並みにも、柔らかな日差しが差し込む時間が増えてきたように思います。
季節が前へ進むと、お作りする日本料理も一気に春めいてきます。
3月に入り、お献立の中心は「桃の節句」をテーマにしたものへと変わりました。

冬の間は根菜の力強さや、立ち上るお出汁の湯気が主役でしたが、今は違います。
菜の花のほろ苦い青い香りや、桜色に染まった食材たちが、まな板の上を明るく彩っています。
厨房に並ぶ器や食材の色彩が、日を追うごとに鮮やかなトーンへと移り変わっていくのを見ています。
お店でお出しする懐石・会席のコースで春を味わっていただくのはもちろんですが、ご自宅でご家族揃ってお祝いの席を設ける方からのご相談も増えてきました。ひな祭り用の仕出し料理として、写真のような折詰弁当のご注文を承っています。
意識しているのは、白木の蓋を開けた瞬間に、パッと春の景色が広がるような彩りを作ることです。
二段重の下段の左には、ちらし寿司を敷き詰めました。
細く刻んだ錦糸卵の明るい黄色を一面に広げ、その上にふっくらと香ばしく焼き上げた穴子、茹でたての海老の紅白、そして艶やかに光るいくらを散らしています。酢飯の甘酸っぱい香りが、ふわりと鼻を抜けていきます。
桃の節句といえば、やはりちらし寿司ですね。
こうして折詰に組み込むだけでなく、ちらし寿司単体でのご用意もしています。
下段右には、笹の葉を敷いてお造りを盛り込みました。ねっとりとしたマグロの深い赤、白身魚の透き通るような身、そして梅の形に飾り切りをした人参を添えて、小さな春の訪れを表現しています。
冷たいものは冷たいまま召し上がっていただけるよう、配達の段取りにも細心の注意を払って準備を整えます。
そして上の段には、手仕事の品をぎっしりと詰め込みました。
細い衣を纏わせてサクサクに揚げた海老の食感、しっとりと焼き上げただし巻き卵。
春を告げる蛍烏賊には、なめらかな黄身酢をかけて仕上げています。
淡い緑色の餡、これはうすい豆の擦り流しを張ったお料理には、柔らかな桜色の道明寺蒸しを浮かべました。
一つひとつのマス目に、春の味覚と食感を閉じ込めました。
春の陽気とともに、丁寧に箱詰めしたお料理をお届けします。
ご自宅でお子様の健やかな成長を願う食卓に、安来家の料理がささやかな華を添えられればと思います。
