桃の節句を彩るお祝いの膳と、お座敷で見守る百年前の雛人形
今日は3月3日、ひな祭りです。
春の少し冷たい空気の中にも、柔らかな日差しを感じる良い季節ですね。
初節句のお祝いに向けた御料理の準備を進めています。
重箱や漆の器に、春の食材を丁寧に盛り付けていきます。ほんのりと桜色に染まった食材や、みずみずしい青菜が、お祝いの席の彩りとなります。
本日は、ご自宅でご家族揃ってお祝いをされるお客様へ、仕出し料理の配達にも向かいました。
赤ちゃんの健やかな成長を願う特別な日です。
だからこそ、お料理の形が少しでも崩れないよう、そっと箱へ収めて車へと運びます。
そしてここ、阿倍野にある安来家の店内でも、初節句のお祝いの席をご用意しました。
懐石・会席のコースに合わせて、温かい椀物の蓋を開けた瞬間、優しい香りがお部屋の隅々にまで広がっていきます。
日本で古くから受け継がれてきたこのような美しい行事を、日本料理の店として、これからも大切に守り、伝えていきたい。お祝いの膳を整えるたびに、そう強く思います。
そんなお祝いの席を設けたお座敷には、赤い毛氈(もうせん)を敷き詰めた七段飾りの雛人形を飾っています。

写真をご覧いただくと、一番上には立派な屋根のついた御殿があり、その中でお内裏様とお雛様が静かに座っています。
三人官女や五人囃子、そして下に並んだお琴や小さな重箱などの細やかなお道具まで、一つ一つが精巧な作りです。
実はこの雛人形、100年以上も前に作られたものです。
お顔の穏やかな表情や、少し色褪せた着物の風合いには、長い年月を経たからこそ滲み出る、静かな佇まいがあります。
かなり古いものですから、毎年飾り付けるときも、片付けるときも、とても神経を使います。
薄い和紙をそっとめくり、決して傷をつけないように両手で包み込むようにして持ち上げ、段の上の定位置へと整えていきます。
ただ、そうやって丁寧に埃を払い、毎年大切に扱うことで、なんとか今日まで受け継がれてきました。
新しいものにはない、時を重ねた独特の温もりが、この人形たちには宿っているように感じます。
だからこそ、春が近づくこの季節になると必ず箱から出し、お座敷の空気に触れさせています。
こちらの雛人形は、3月の間はお座敷にそのまま飾っております。
お食事でご来店の際には、ぜひお近くで、100年の時を越えてきたお顔をひと目見ていただけたらと思います。
