桃色の掛け紙に春を包んで。節目のお祝いに寄り添う折詰弁当
3月の声を聞くと、吹き抜ける風が少しだけ柔らかくなったように感じます。
街を歩く人たちの足取りも、どこか慌ただしくなる季節ですね。
卒業式や進学、そして新しい環境への準備。
出会いと別れが交差するこの時期は、日々の生活がパタパタと音を立てて進んでいくようです。
ここ阿倍野にある安来家でも、そういった節目のお祝いに向けた仕出しなどのご注文が少しずつ増えてきました。
ご家族で囲むお祝いの席や、お世話になった方へのご挨拶。
そんな大切なひとときのために、私たちは朝早くから出汁を引き、仕込みを始めています。
お祝いのお席へお届けする仕出し料理は、いつも以上に華やかさを意識して整えます。
私たちが大切にしているのは、お弁当をお渡しする時の最初の姿です。

安来家では、折詰弁当の掛け紙を季節ごとに変えています。
今の時期は、3月の桃の節句に合わせた柔らかな色合いの掛け紙をかけました。
淡い桃色を背景に、ぼんぼりや菱餅、そしてふっくらとほころぶ桃や梅の花が描かれています。
その上から細い金の紐を一筋かけます。
ただの木の箱が、祝いの包みに変わる。
折詰弁当を包むとき、お祝いの気持ちを込めて、私たちも少し背筋が伸びる思いがします。
そして、白木の蓋をそっと持ち上げた瞬間。
まずはふわりと、お料理の香りが漂うはずです。
蓋を開けていただいた時、見た目と香りから一気に「新しい春」を感じていただきたい。
そう考えながら、懐石・会席でお出しするようなお料理の数々を、
お弁当箱の小さなマスの中に一つひとつ盛り込んでいます。

例えば、左上のマスには春の訪れを告げる山菜と海老のかき揚げ、あおさの天ぷらを入れます。
薄い衣をまとわせて、サクッとした歯触りが残るように揚げています。
添えられたレモンを少し絞っていただくと、よりさっぱりとした風味が引き立ちます。
真ん中のマスには、春らしくうすい豆の擦り流し餡をかけた一品を。
そして右上のマスには、小さな春の象徴であるホタルイカや、出汁をたっぷり含んだだし巻き卵やサヨリの鮨など少しずつ彩りよく詰めました。
下の段には、新鮮なお刺身を笹の葉の上に盛り付けます。
金目鯛の祐庵焼きやしっとりとしたローストビーフも添えて、
ボリュームと味の変化を楽しんでいただけるようにしています。
一つのお弁当箱の中で、どのように季節の移ろいを表現するか。
彩りのバランスや、お箸を進める順序を想像しながら、丁寧に御料理の配置を決めています。
春は、これからの期待で胸が膨らむと同時に、少しの寂しさが入り混じる季節です。
だからこそ、美味しいお料理を囲んで、心穏やかな時間を過ごしていただきたいと思っています。
3月ならではのイベントや、ご家族の特別な節目に。
安来家の日本料理が、皆様の大切な日の思い出に少しでも彩りを添えられれば嬉しいです。
