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桜の盛りも過ぎ、阿倍野の街でも、歩く人たちの装いも少しずつ軽やかになってきました。

安来家では、月も半分を過ぎると、来月の献立も考え作り始めます。

「春の名残」と「初夏の走り」をどう日本料理として映し出すか、毎日頭を悩ませながら、でも楽しく献立を練っています。

懐石料理の最後を締めくくる「お食事」。

お酒を楽しんだ後でも、すっとお腹に収まるような、それでいて心の温度が少し上がるような一品をお出ししたい。

そんな想いで今月ご用意しているのが「生湯葉の葛あんかけごはん」です。

澄んだ出汁と「吉野葛」が作る、口当たりの良さ

このお料理の命は、「あん」の透明感と喉ごしにあります。

一般的にあんかけには片栗粉を使うことも多いと思います。

安来家では「吉野葛」を使います。片栗粉は粘りが重かったり、少し濁りが出てしまいます。

一方、葛は特有の滑らかさがあり、何より出汁の表情を美しく透かしてくれるんですね。

そのベースとなる出汁にも、少し工夫をしています。

今回は力強い鰹節(かつおぶし)ではなく、あえて「鮪節(まぐろぶし)」と真昆布でひいた一番出汁を選びました。鮪節は鰹に比べて血合いが少なく、非常に上品で澄んだ甘みが出るのが特徴です。湯葉という繊細な素材の味を邪魔せず、そっと寄り添うような出汁でなければならないと考えたからです。

一度「炊く」ことで生まれる、湯葉の重なり

主役の湯葉は、上質な生湯葉を仕入れています。

そのまま食べても美味しいものですが、ごはんに乗せるとなると、もう一手間が必要です。

まず生湯葉を薄い出汁でさっと一度炊き上げます。こうすることで、湯葉の一枚一枚に出汁の旨みが染み込み、ごはんと一体になった時の馴染みが格段に良くなります。

炊いた湯葉は、お箸で掬いやすい適度な大きさに切り分け、先ほどの鮪節の出汁と合わせます。

吉野葛でとろみをつけたら、炊き立ての白いごはんの上へ。

最後に添えるのは、三つ葉と、少し多めにすりおろした「生姜」です。

この生姜が、実は名脇役でして。葛あんのまろやかな甘みの中に、生姜のピリッとしたパンチが加わることで、味がぐっと引き締まります。湯葉の優しさと生姜の刺激、この対比が春の終わりの少し気だるい体には心地よく響くと思います。

脇を固める、香ばしい味噌汁と香の物

お食事には、もちろんお味噌汁と香の物を添えています。

安来家のお味噌汁は、実は毎月こっそりと具材を変えているんですよ。

今月は、お豆腐と葱、そして「香ばしく焼いた薄揚げ」を入れています。

揚げを一度網で焼いてからお汁に入れることで、お椀の蓋を開けた瞬間に、ふんわりと香ばしさが広がります。

ほんの些細なことですが、この「ひと手間」が、最後の一口まで楽しんでいただくためのこだわりです。

添えられた香の物と一緒に、温かいうちにお召し上がりください。

出来立ての景色、ご来店で

実はこの「湯葉あんかけごはん」、お店でお食事をされるお客様限定となります。

安来家では阿倍野を中心に仕出し配達も承っておりますが、このお料理は配達でお届けすることができません。

どうしても時間が経つと、ごはんがあんの水分を吸ってしまい、独特のさらりとした食感が損なわれてしまうからです。

「一番美味しい瞬間を、そのまま召し上がっていただきたい」

そんな理由から、配達の場合はお寿司をご用意させていただき、このあんかけごはんは、お座敷やイス席でゆっくりとお過ごしいただくお客様へのみお出ししています。

春の光が差し込む個室で、最後の一匙までゆっくりと。

安来家でのひとときが、皆様にとって心解けるものになれば、これほど嬉しいことはありません。

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