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写真は、席のはじめにお出しした向付、一文字飯、汁物です。

茶懐石では、料理がただ順番に出るのではなく、飯、汁、向付から始まる流れそのものに意味があります。最初のひと揃いは、これから続く時間の入口でもあり、季節の気配を静かに伝える場面でもあります。

5月21日から5月31日までの10日間、安来家では茶懐石の出張料理をさせていただいております。

茶懐石の出張料理は年に数回ございますが、今回は簡易的な点心ではなく、人数は少ないながらも本格的な懐石料理としてのお支度です。

今年の5月21日は、二十四節気の「小満」にあたります。草木が勢いを増し、天地に生命が満ち始めるころとされ、5月下旬から月末にかけては、初夏の明るさと、梅雨を前にした湿り気が少しずつ重なっていきます。皐月の茶事として、そうした時期の空気を料理の中に映せるよう、献立の始まりを考えました。

茶懐石は、お茶をいただく前の食事として、空腹を満たすだけのものではありません。量を重ねて豪華に見せるよりも、飯と汁、向付から始まり、席の進み方に合わせて少しずつ味わいを移していく料理です。出張料理であっても、その考え方は同じです。場所が変わっても、茶事の時間に合わせ、料理が急ぎすぎず、かといって間延びしないように、一品ごとの役割を意識してお出ししています。

向付は、初カツオのたたきです。初カツオは初夏を告げる味として古くから親しまれてきました。皐月の茶事の始まりに、重たくなりすぎず、きりりとした印象を添えてくれる一品です。向付は、席のはじめに出る料理でありながら、強く主張しすぎるものではありません。飯と汁物のそばに置かれることで、懐石の始まりにふさわしい落ち着いた景色になります。

汁物は、あさりの袱紗仕立てです。あさりのうまみを生かしながら、袱紗仕立てならではのやわらかな口当たりで、皐月の茶事に寄り添う一椀としてご用意しました。汁物は、味の濃淡だけでなく、温かさや香り、口に入ったときのほどけ方まで含めて、席の流れを作る大切な役割があります。

一文字飯、向付、汁物が並ぶと、料理の華やかさだけではなく、茶懐石らしい静かな始まりが見えてきます。人数が少ない席では、一品ごとの距離も近くなります。そのぶん、器を前にしたときの印象や、最初のひと口の季節感が、その後の時間に自然とつながっていきます。

出張料理では、店内とは違う場所でお料理をお出ししますが、茶事の中で料理が置かれる意味や順番は変わりません。お客様の人数、席の流れ、料理をお出しする場所の環境によって、準備の仕方や運び方は変わります。それでも、簡易的にまとめるのではなく、茶懐石としての形を保ちながら、その場に合わせて無理のない流れになるように考えています。

今回のように人数が少ない茶事では、料理と向き合う時間もより静かになります。ひと皿を大きく見せるより、ひと口ごとの余韻や、次の料理へ移る間合いが大切になります。初カツオの向付で季節の輪郭を出し、あさりの袱紗仕立てで椀物のやわらかさを添えることで、皐月の終わりらしい軽やかさと落ち着きが同じ席に並ぶように意識しました。

5月も終わりに近づき、皐月から水無月へ移るころ。

初カツオの向付、あさりの袱紗仕立て、一文字飯から始まる今回の茶懐石が、季節の移ろいを感じていただくひとときになれば幸いです。

安来家では、季節の懐石料理や茶懐石の出張料理について、内容や人数に合わせてご相談を承っておりますので、お気軽にご相談くださいませ。

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