季節が交差する。2月から3月への移り変わり
阿倍野の街を吹き抜ける風に、ほんの少しだけ柔らかな温度を感じるようになりました。
空の色も真冬のそれとは少し違い、春の気配を帯びてきているようです。もう2月も終わりに近づいていますね。
日本料理の特に安来家の厨房において、この月末から月初にかけての時期は独特の空気に包まれます。
それは、今の季節と次の季節が、この空間で同時に交差するからです。
今はまさに、月替わりのタイミングです。
目の前の、今日ご予約いただいたお客様のために、今月の懐石・会席料理を全力で仕上げていきます。

お椀の蓋を開けた瞬間に立ち上る、出汁の柔らかな湯気。
包丁がリズミカルに食材を刻む音。焼き場から漂う、表面が香ばしく色づく匂い。その一つひとつに神経を集中させます。
今月ならではの味覚を、一番美味しい状態でお出ししたい。だから、器に盛り付ける手の動きにも自然と熱が入ります。
それはお店の中だけでなく、外へお届けするお料理でも同じです。
仕出し料理の折箱の蓋を閉める直前まで、彩りのバランスや詰め具合を目で追います。何度でもチェックをすることは怠りません。
そして配達でお客様の元へ向かう車の中でも、箱の中で料理が美しく保たれているか、常に気を配っています。
ただ、私たちの頭の半分は、すでに来月へと向かっています。
目の前の料理に全力を注ぎながらも、同時並行で次の献立を組み立てているのです。
「来月のあの食材には、どんな味付けで他の食材と合わせようか」「春らしいあの器に、どうやって季節を盛り込もうか」
鍋の火の通り具合を確認しながら、頭の中では別の食材の組み合わせをシミュレーションしています。
手が空いたわずかな時間には、白い紙にペンを走らせて、来月の段取りを文字に起こしていきます。
今月の集大成を形にしながら、来月の産声を準備する。
この同時進行は、正直に言えば目が回りそうなほど慌ただしい時間です。厨房内の足早な動きが、それを物語っています。
けれど、不思議と疲れは感じません。むしろ、この季節の変わり目の忙しさは、確かな喜びとして私たちの手の中にあります。
季節が移り変わる瞬間にいち早く立ち会い、それを料理として形にしていく。この静かな高揚感は、料理を作る者にとって何よりのやりがいです。。
そして、私たちが厨房で感じているこの喜びやワクワクとした気持ちを、少しでもお客様におすそ分けできたら嬉しいです。
私たちが考え抜いた新しい献立を口に運んでいただいた時、「ああ、もう新しい季節が来たのだな」と笑顔がこぼれるその瞬間のために。
安来家は今日も、丁寧に日々を重ね、新しい月の準備を整えています。
移りゆく季節の喜びを、そのまま器にのせてお届けしたいと思います。












