春本番、会席料理の要「椀物」——安来家のこだわりと季節の香りを一碗に
日に日に陽光が柔らかさを増し、草花が芽吹く季節となりました。
朝晩の冷え込みもようやく和らぎ、春の訪れを実感できる今日この頃。
日本料理において、この“季節のうつろい”を最も繊細に映し出すのが「椀物」です。
目で、香りで、味で…すべての感覚で春を感じていただけるよう、一碗に心を込めて仕立てました。
今月の椀物は、
鱚(きす)の真薯、蓬団子、独活(うど)、桜大根、木の芽 清汁仕立て。

日本料理の献立では、「走り(旬の始まり)」「盛り(旬の盛り)」「名残(旬の終わり)」という三段階の季節感を大切にします。
今回の椀物では、まさにその“走り”にあたる鱚を用いております。
鱚は春の訪れとともに漁が始まり、上品でクセのない白身が特徴です。
この鱚を丁寧にすり身にして、ふんわりと蒸しあげた鱚の真薯は、まるで春の風のように柔らかく、優しい味わい。
お椀の中心にしっかりと存在感を放っています。
さらに、“盛り”の食材として、春の香りを象徴する**蓬(よもぎ)**をふんだんに使用した蓬団子を添えました。
生の蓬をすり込み、もちもちとした食感に仕上げた団子は、草の香りとほんのりした苦味が絶妙で、鱚の淡白な旨味を引き立てます。
添えられているのは、千切りにした独活(うど)。
シャキシャキとした歯ごたえがアクセントになり、春の山菜らしい野趣を感じさせます。
そして、ほんのり桜色に染めた桜大根。見た目の華やかさを演出するだけでなく、爽やかな風味とともに、お椀に季節の彩りを添えます。
吸い口には、木の芽をあしらい、蓋を開けた瞬間、ふわっと春の香りが立ち上がります。
まさに一碗の中に春を閉じ込めた、逸品です。
この椀物を支えているのが、安来家が誇る一番出汁。
私たちは、北海道産の真昆布を贅沢に使い、合わせる節には**鰹節ではなく“鮪節(まぐろぶし)”**を使用しております。
この鮪節は、雑味が少なく、ぐっと奥行きのあるまろやかな旨味が特徴。
出汁そのものに深い余韻をもたらし、繊細な椀種の味を際立たせてくれます。
出汁の取り方にも細心の注意を払い、温度、時間、昆布と節の分量に至るまで徹底して管理しております。
料理人としての技術だけでなく、四季と向き合う“感性”が求められるのが、日本料理の世界。安来家では、その感性を大切にしながら、一期一会の一碗をお届けしています。
春は出会いと旅立ちの季節。
お祝いの席やご家族の集まりに、阿倍野の地で丁寧に仕立てた会席料理を囲んでいただけることは、私たちにとっても大きな喜びです。
お店でのご会食はもちろん、仕出しや配達のご注文も承っております。
ぜひこの春、安来家の椀物で、五感すべてで“季節を味わう”という日本料理の魅力をご体感ください。