四季だけでなく、十二の季節を映す懐石の一皿──皐月の八寸より
気づけばもう6月。
新緑から少しずつ深みのある色合いに変わりゆくこの頃、つい先日までお出ししていた皐月の八寸をご紹介させていただきます。
阿倍野の地で、日本料理・会席料理をお届けしている安来家では、
四季という大きなくくりだけではなく、より細やかな「十二の季節(旧暦に基づく節気)」を意識して、
懐石料理をご提供しています。特に八寸は、その季節感を色濃く映す一皿。
もともとは茶席における酒肴として供されたもので、
亭主と客人が最もくつろぐひとときに登場する、まさに“懐石の心”が凝縮された存在です。
その精神を大切にしつつ、現代の食卓でも「美味しい」と感じていただけるよう、
味わいの工夫と素材の活かし方にこだわり、丁寧に仕上げております。

〈皐月の八寸〉
左上には、旬を迎えた桜海老を使い、ほうれん草のお浸しに。香ばしさと青菜のやさしさが絶妙に合います。
中央上は、稚鮎の唐揚げ。“香魚”とも呼ばれる鮎の風味を引き立てるため、
スイカを使った自家製の爽やかなソースを添えております。
鮎とスイカ――一見意外な組み合わせですが、素材の香りを活かした日本料理ならではの組み立てです。
右上には、新じゃがのオランダ煮。
油を使って甘辛く炊き上げるこの料理は、もともと“西洋から伝わった油料理”という意味合いを込めて「オランダ煮」と呼ばれており、和と洋の調和を感じさせる一品です。
中央には、粽(ちまき)寿司をご用意しました。
端午の節句を代表する粽を、日本料理らしく酢〆の鯵と酢飯でアレンジし、笹の葉で丁寧に包んで仕上げました。
初夏の香りとともにお楽しみいただけます。
左下には、旬の名残となる筍を鶏肉で巻いた「筍鳴戸巻き」を。
上に富山県産のホタルイカを添え、酢味噌でさっぱりと。
そして、河内産の脂の乗った鴨肉は、しっとりとロースト。
火入れにこだわり、旨味をぎゅっと閉じ込めています。
手前には、じっくりと煮含めた鯛の子、そして焼きたてのだし巻き卵。
会席料理の中でも「安心と滋味」を感じていただける存在です。
八寸とは、料理の真ん中にありながら、懐石全体の流れを引き立てる“架け橋”のような存在。
どれも一見小さな一品ながら、それぞれに物語があり、そしてひと皿としてまとまりのある世界をつくっています。
安来家では、「素材を活かす」という懐石料理の根本を大切にしながら、伝統と革新の間で常に新しい美味しさを追い求めています。
また、このような季節感あふれる御料理をご自宅でも楽しんでいただけるよう、仕出しやお弁当のご注文も承っております。ご家族での集まりやご接待、法事など、様々な場面でご活用いただける内容をご用意しております。
6月もまた、初夏ならではの旬を盛り込んだ懐石をご用意しております。
阿倍野・安来家で、季節のうつろいとともにある日本料理をお楽しみくださいませ。